7/28〜7/30にパシフィコ横浜で開催された KubeCon + CloudNativeCon Japan 2026 に参加してきた。 本会議は7/29(水)・7/30(木)の2日間で、7/28はCNCF主催の併設イベント日。 今回はメインの2日間、キーノートと数多くのセッションを聞いて回ったので、印象に残ったところを中心に記録として残しておく。
全体として感じたのは、昨年参加した KubeCon Japan 2025 ではサービスメッシュ・移行事例・オブザーバビリティ・eBPF・ネットワーキングなど幅広いテーマが並ぶ中でAI(Generative AI)関連のキーノートが1つあった程度だったのに対し、今年は「AI推論・学習をKubernetes上でどう効率よく大規模に回すか」という話を扱うセッションが増えていたこと。 GPU、電力、分散推論、AIエージェントの運用まで、AIをテーマとするセッションが多かった。
他にも eBPF 関連のセッションも面白そうだったが、自分はSREとしてプラットフォームの運用性・信頼性・チーム間の摩擦に向き合おうとしているので、これらセッションよりも、プラットフォームエンジニアリング寄りのセッションに足を運んだ。 この記事でも、そうした視点で聞いたセッションを中心に振り返る。
1日目(水): AI Adoption Surges
キーノート: Cloud Native Moving
初日のキーノートは「AI Adoption Surges」というテーマで始まった。
Uberはかなり大量の予測をKubernetes上で捌いており、価格決定や安全チェックなど用途ごとに専門化された大量のAIモデル群を動かす基盤としてKubernetesを位置づけているという話があった。
自動運転スタートアップのWayveは、ジョブキューイングプロジェクト Kueue を活用してクラスタのGPU使用率を85%から97%まで改善したという事例も紹介されていた(Tech Times記事)。
推論と学習の比率が67%対33%まで逆転しつつあるという話もあり、「学習は断続的だが推論は毎プロンプトごとに走る」というシンプルな理由が説明されていた。
分散システム・オーケストレーション・ネットワーキング・o11yなど、大規模推論を支えるための要素技術群として、Red Hat・Google Cloud・IBM Research・CoreWeave・NVIDIAらが立ち上げた分散LLM推論フレームワーク llm-d も紹介されていた。
後半はHugging Face CEOのClement Delangueが「企業はもうAIを借りる時代を終える」「オープンソースが勝つべき」という趣旨の主張を展開し(TechCrunch記事)、"Japan Cloud could end up an AI colony if it falls behind" というフレーズとともに、自国でAI基盤を持たない国は"AI植民地"になりかねないという、AI sovereigntyの議論に繋がっていった。 このあたりはKubeCon EU 2026でも語られていたテーマらしく(Pulumi Blogのレポート)、地政学の話とインフラ技術の話が同じキーノートの中で語られていたのが目についた。
the next evalution of k8s: gpu-centric infra for AI workloads, Takao Indoh
GPU・DRAMなど高騰するAIリソースのコストを扱うこのセッションで紹介されていたのが CoHDI("Composable Hardware in Disaggregated Infrastructure"、通称"Cody")。
富士通発のOSSプロジェクトで、GPU/DRAMなどを分離(disaggregate)したハードウェアプールから、Podの要求に応じて動的にアタッチ/デタッチできるようにする仕組み。
KubernetesのDynamic Resource Allocation (DRA) と統合されており、v0.1.0が2025年10月にリリース済み、現在CNCF Sandbox登録を目指している段階とのこと(CNCF Sandbox申請Issue、プロジェクトサイト)。
GPUの絶対数が足りない中で「持っているハードウェアをどう合成して見せるか」という発想が実務的だと感じた。
Mulit Tenant with CNCF Ecosystem (Preferred Networks)
PFN(Preferred Networks)によるセッションでは、logical → API → kernel → physical という4段階のisolationを、コストと隔離強度のトレードオフとして整理していたのが分かりやすかった。
namespace/RBACレベルの軽量なlogical isolationから、gVisor/Kata Containersのようなkernel isolation、専用ノードを割り当てるphysical isolationまで、必要な隔離レベルに応じて使い分けるという考え方。
公平性の実現には HRQ (Hierarchical Resource Quota) で階層ごとのクォータ上限を決めつつ、Kueue でジョブキュー単位のFair Sharingを行うという組み合わせが語られていた。
GPUクラスタを複数チームで分け合う上での定番パターンなのだろうと感じた。
AIOps: (near) Zero-Touch Production Rollout Fixes
IBMのKevin DuboisとAdobeのCarlos Sanchezによる発表。 ロールアウトが失敗した際にAgentic AIがログやメトリクスを解析し、原因に応じて自動的に修正PRを作成して通知する、という「ほぼ無人(near zero-touch)」なロールアウト修正のデモだった。
導入として2024年のCrowdStrikeの大規模障害(設定更新の一斉配信でWindows端末が大量クラッシュし、航空・鉄道など広範なインフラに影響が出た事例)が引き合いに出され、progressive delivery(段階的リリース)の重要性が語られていた。
デモでは実際にリリースがロールバックされる様子と、「なぜロールバックしたか」がAIエージェントによって説明され、さらに修正PRまで自動生成されるところまで見せていた。
仕組みとしては Argo Rollouts の AnalysisTemplate に対して、人間がPromQLを書く代わりにAIエージェントに判断を委ねるプラグイン argoproj-labs/metric-ai が使われていて、agentUrl・stableLabel/canaryLabel・extraPrompt・githubUrl のようなフィールドをYAMLに書くだけでAIによるカナリア分析とPR自動生成が動く様子が具体的に示されていた。
学びとして紹介されていた「1つのAIサービスから並列・非同期のagentic systemへの移行」「LLM選定+context engineering+tool calling(特にPR作成のため)」「複雑性とportabilityのトレードオフ」という3点は、自分がAIエージェントを組む上でも参考になりそうだった。
From Tool Calls to Context Fabric: Building AI-Native Observability for Platform Engineering
AIOpsのセッションと合わせて聞くと理解が深まったのが、こちらのセッション。 障害調査では「メトリクスはPrometheus、ログはLoki、異常検知は別ツール、運用知識はランブック」というように情報が分散しているのがよくある課題で、既存のAIアプローチ(RAG、Text-to-PromQL、単一ツール特化のcopilot)はそれぞれ得意領域はあるもののドメインをまたいだ関連付けが弱い、という指摘から始まった。
提案されていた"context fabric"は、サービス・メトリクス・ログ・異常検知・ドキュメントを事前に(問い合わせが来る前から)知識グラフ・メタデータキャッシュ・ドメイン横断の関係性モデルで繋いでおき、それをMCP経由でAIエージェントに渡すという構成。 「安全な調査は5つの質問を順番に行う」— resolve(何が影響を受けたか)・discover(各ソースは何に答えられるか)・query(いつ何が観測されたか)・align・recommend、という構造化されたワークフローが参考になった。 "discoveryはクエリではなくワークフローであり、事前に計算しておくべきもので、都度ライブに問い合わせるものではない"という原則は、SREとして自前のオンコール向けAIアシスタントを作るなら参考にしたい設計だと感じた。
OCI is not Git: Rethinking the GitOps Source of Truth for a Kubenetes-Native World
従来のGitOpsは「Gitリポジトリ=構成のSource of Truth」が前提だったが、近年はOCIレジストリにKubernetesマニフェストやHelmチャート、SBOM、署名なども"OCI Artifact"として格納し、そこをデリバリの起点にする動きが広がっているという話。 Gitには「人間によるレビュー・変更管理」という強み、OCIには「不変性・可搬性・エアギャップ対応のしやすさ」という強みがあり、どちらか一方を選ぶのではなく両方を活かそうというのが Kokumi というOSSプロジェクトのコンセプトだった。
Kokumiはマニフェストをレンダリングするたびにcontent-addressedな不変のOCIアーティファクトを生成し、実際のデプロイ実行は自前で行わず Argo CD に委譲する設計。
「git=変更管理」「Kokumi=不変アーティファクト管理」「Argo CD=デプロイ実行」という3層構造で役割分担しているのが整理として分かりやすかった。
個人的には「git で十分では」と思いながら聞き始めたが、Edge/Air-Gap環境のように"都度pull/reconcileする"ことが前提にできない場面では、事前にレジストリごとオフラインへ持ち込めるOCIの不変性が効いてくる、という説明があった。
自分の所属組織でもセキュアな環境と一般の環境を分けて運用しているので、もしセキュアな環境側からGitリポジトリへのアクセス自体ができないとしたら、こうした構成を取る必要が出てくるのかもしれないと考えると興味深く感じた。
Sustinablity by Design: Leveraging DRA for Energy-Efficient Kubernetes Cluster
x/gpu: "1" のような汎用的なGPU要求ではなく、firstAvailable: [{deviceClassName: gpu-energy-efficient}] のように省エネなデバイスクラスを明示的に選択できるようにする、というDRA (Dynamic Resource Allocation) 活用の発表。
CELで具体的なハードウェア特性を指定する"DRA CEL Selection"や、H100のようなperf/watt に優れたハードウェアを優先する"DRA Prioritized List"など、スケジューリング層での工夫が紹介されていた。
エネルギー消費の計測にはKeplerというCNCF Sandboxプロジェクトが使われており、標準化されたメトリクスをKEDAやVPAのようなスケーリング系プラグインが読み取って判断に活かす、という連携イメージが語られていた。
Evolving Platform Primitives, Beautiful Platform with KRO
AWS・Google・Microsoftが初めて共同でOSSプロジェクトを立ち上げたという点でも話題の kro (Kube Resource Orchestrator)。
「Helm・Kustomize・自作シェルスクリプト・Backstageテンプレートのように"ツール"を次々足していくのではなく、"primitive(基本部品)"を設計する」という主張が印象に残った。
primitiveの条件として挙げられていた closure(組み合わせても同じ種類のものになる)・uniform interface(統一インターフェース)・orthogonality(関心の分離)という3ルールは、kroに限らずAPI設計全般に効きそうな考え方だと思う。
ResourceGraphDefinition というカスタムリソースでAPIスキーマとその裏にある複数のKubernetesリソースをCEL式で繋いで定義すると、kroが自動でCRDを生成し、依存関係順にreconcileしてくれる。
「公開するAPIの5原則」(利用者のドメインの言葉で命名する/利用者が判断できる項目だけ公開する/よくある使い方はゼロコンフィグにする/各フィールドの所有者を明確にする/statusもAPIとして丁寧に設計する)はチームで社内プラットフォームAPIを設計する際にそのまま使えそうなチェックリストだった。
自分の所属組織では独自形式のYAMLからAWSリソースを生成するような仕組みをすでに作ってしまっているので、kroへの移行は簡単ではなさそうに感じたが、調べてみる価値はありそうだと思った。
Turning Platform Engineering Work into Business Value Leadership Understands
SREとしてプラットフォームチームの成果を経営層にどう主張するかは考えておく必要があると思うので、このセッションは興味深く聞いた。 プラットフォームエンジニアリングチームは強力な内部プラットフォームや自動化を作っているのに、なぜその投資が正当かをうまく説明できず苦労している、という導入から始まり、技術的な改善を経営層の言葉に翻訳した実例が紹介されていた。
指標フレームワークとしては、デプロイ頻度・変更のリードタイム・変更失敗率・サービス復旧時間を測るDORAメトリクスが「経営層に説明しやすい」定番として挙げられ、"DORA自体はビジネスケースそのものではないが、その半分はリスクを金額に換算するものであり、risk is money" というフレーズが印象に残った。
開発者体験を多面的に捉えるSPACEフレームワークや、それらを統合したDX Core 4も紹介され、「速度系」と「体験系」の指標を組み合わせて語るという実務的な指針が示されていた。
財務用語としてのcapex to opex shift(自前データセンターへの資本的支出から、クラウドの従量課金への転換)も、クラウドネイティブ化を経営層に伝わる言葉に翻訳する切り口として紹介されていた。
もう一つ印象に残ったのが、プラットフォームの成熟度モデル: provisional(有志・一時的、中央予算なし)→ operational(専任チーム、コストセンター)→ scalable(プロダクトベースの予算、価値に応じたchargeback)→ optimizing(エコシステム全体の効率化) という段階を "treat your platform as a product from day one" という一言でまとめていたこと。 ユーザーを顧客として扱い、ディスカバリー・ロードマップ・フィードバックのプラクティスを回し、価値に応じた予算配分(chargeback)で資金を得るという発想は、自分たちのプラットフォーム運用にも持ち帰りたいと感じた。
From 165 Days to 30 Minutes: Breaking Enterprise Silos with Platform Engineering
もう一つ、SREとして関心を持って聞いたのがJAL Digitalの発表。 "Hello World"レベルのアプリをデプロイするだけで15部署・40種類の申請フォームを通す必要があり、基本的なシステム構築に165日かかっていたという課題からスタートし、それを30分にまで短縮した過程が語られていた。
原因はあちこちのwiki/マニュアルに情報が散らばる"ドキュメントの混沌"と、アプリケーションチームとインフラチームの間のサイロ化。 インフラチーム単体でプラットフォームを作っても開発者の日々の痛みは解決できないという考えのもと、App/Infraを横断する社内プラットフォームチームを立ち上げていた。 設計思想の"desire paths(けもの道)"— 開発者が実際に取っている近道・自然なワークフローを観察してそれをそのまま正式な道にする、という発想は、規則で縛るのではなく実際の行動を起点にするという意味で、SREのオブザーバビリティ的な発想と近いものを感じた。
進め方としては、大きな事前計画を捨てて素早く作って・試して・学ぶ独自のAgile運用(心理的安全性、部門横断でのオーナーシップ共有、"Thank You"から始めるセッション)、最初はAWS Lambda/DynamoDBのプロビジョニング自動化という1点の摩擦に絞って着手する"Start Small, Win Big"、そしてトップダウンでの強制導入ではなくDay 0/Day 1+チュートリアルや"3mm Rule"(開発者の目線に極力近い場所に導線を置く)による自発的な採用促進、という3つのアプローチが紹介されていた。
ツールも上から強制するのではなくチーム自身がBackstageを選んだという"engineering autonomy"の尊重は、標準化を急ぎがちなSRE/プラットフォームチームへの参考になった。
165日を30分にするような一発の銀の弾丸があったわけではなく、組織づくりや小さな成功の積み重ねといった地道な改善の結果なのだという点が、話を聞いていて感じたことだった。
2日目(木): Identity、Sustainability、そしてAIエージェントへの"信頼"
キーノート: Where will Cloud Native take you?
2日目のキーノートはJeffery Sica氏による、コードを書かなくてもOSSには貢献できるという話が中心だった。
火星の人(The Martian)の原作がプログラマーによって書き始められ、読者からのバグ報告(フィクションへの!)を経て出版に至ったというエピソードを引き合いに、「"プログラム主体"のOSSはなく、アイディアのコミュニティ運営が主体である」という主張があった。
貢献の入り口として contribute.cncf.io が紹介されていた。
Navigating the Identity Abyss in the AI-Native Era
Web App(SSO)・REST API(OAuth 2.0)・Agentic AI(MCP spec)と、レイヤーごとに認証・認可の方式がバラバラになっている"ID沼"を整理するセッション。
OSSのIAM/SSO基盤として広く使われる Keycloak を軸に、CNCF TAG Securityの IAM White Paper、日本発のWebAuthn検証ライブラリ webauthn4j、そしてMCPの拡張仕様である MCP Enterprise-Managed Authorization まで、企業がAIエージェントに社内ID基盤経由でアクセス制御をかける仕組みが紹介されていた。
「認証」だけでなく「認可」の標準化も同時並行で進んでいるという意味で、後述のAuthZENのセッションとも繋がる話だった。
Score-Driven Multi-Cluster Management: An Evaluation Framework for Decision-Making
SoftBankとRed Hatによる発表では、日本各地に分散するAI-RAN基盤(GPU容量・電力・ネットワークがそれぞれ異なる拠点)をどう束ねて推論エンドポイントを最適配置するか、という課題が扱われていた。
マルチクラスタ管理のCNCF SandboxプロジェクトOCM (Open Cluster Management) の Placement にはクラスタ選択のためのスコアという概念はあったが、「そのスコアを誰が計算するのか」という層が存在しなかったというギャップに対し、Dynamic Scoring Framework (DSF) というOCM Add-onを提案していた。
「測定→スコア化→決定→Placement/Policyで適用」というパターンは、AI-RANに限らずEdge/分散クラウドや持続可能性など幅広い意思決定に応用できる、とまとめられていた。
SBOMit: Making SBOMs Accurate with Attestations
SBOM(Software Bill of Materials)の精度問題を扱ったセッション。
従来のSBOM生成ツールは静的解析やパッケージマニフェストに頼るため、ビルド時に動的取得される依存関係を見逃しがちで「推測ベース」になってしまう。
OpenSSFの SBOMit は、witnessツールでビルド中のファイル読み書き・プロセス実行・ネットワーク接続を実際に観測し、in-toto形式の署名付きアテステーションとして記録することで「実測・検証済みのSBOM」を作るという発想。
eBPFとptraceは出力が同じだがeBPFの方が5倍ほど速いという比較や、既存ツール(syft、trivy)との比較で「どれが最も正確とは断言できない」という率直な説明もあった。
背景として、EU Cyber Resilience Act (CRA) がSBOMの作成・保管を法的義務に格上げしつつあるという話もあった。 所属組織でSBOM導入を説得する材料にならないかと思って日本の状況も調べてみたところ、日本ではまだ経済産業省(METI)のガイドライン止まりで法的拘束力はないとのこと。
The Evolution of GitOps in Platform Engineering, Artem Lajko, CNCF Kubestronaut
「GitOps in Platform Engineering」のセッションは、これまで聞いた複数セッションの内容が1つに集約されているような総括的な内容だった。
2017年にWeaveworksが提唱した4原則(Declarative / Versioned and Immutable / Pulled Automatically / Continuously Reconciled)から、大規模化に伴いGit自体が状態ストアとしての限界を迎えつつあるという指摘、そしてOCIベースの"Gitless GitOps"への流れが語られていた。
「thousands of CRDsによってAPIサーバーが遅くなる("config sprawl")」「Git was never the single source of truth、Gitはあくまで"Source of Intent"」というフレーズが印象に残った。
Argo CDのスケーリング手法として、中央のUI/可視性を残しつつ実行部分を各クラスタのエージェントに分散させる Argo CD Agent も紹介されていた。
The Great Doubt: What Building an AI Agent Taught Us About Trust
Grafana Labsが自社のAIアシスタントGrafana Assistantを開発する中で経験した、6段階の"疑い"を振り返るトーク。
京都学派の哲学者・西谷啓治の「大疑」(疑い抜くことでしか真の目覚めはない)を軸に構成されていて、他の技術トークとは異なる切り口だった。
- エージェントを疑う: バグでコンテキストが空でも、もっともらしく回答してしまう(plausible ≠ correct)
- テストを疑う: golden datasetによるテストが"全部green"でも実は間違っている、LLM-as-judge自体の非決定性もある("二重の非決定性")。→
pass@3/pass^3/0-for-3のような評価指標を導入 - 審判を疑う: LLM-as-judgeが自分の採点基準を"甘く"改変して不正合格させていたことが発覚 → 本番トラフィックを継続サンプリングする"online evals"へ
- スコアを疑う: 失敗は分かっても理由が分からない → OTel GenAI SIGのセマンティック規約に沿ってトレースを追加
- 疑いそのものを疑う: システムプロンプトを丸ごと外した"バグ"版がなぜかベンチマークで好成績を記録する事件 → ベンチマーク自体が実力を過大評価しうるという発見
- 疑う自分自身を疑う: 「自分たちは本当にユーザーの疑問を代弁できているのか」という、まだ答えの出ていない問い → 観測性特化の公開OSSベンチマーク
o11y-bench.aiを公開しコミュニティに委ねる
締めの "Trust is not a claim. Trust is the output of verification."(信頼は主張ではなく、検証の結果である)という言葉は、AIエージェントを実運用に乗せる上で重要な指摘だと感じた。
AuthZEN in Practice: Standardizing Authorization for Cloud Native Platforms and Agents
最後に聞いたのが、OpenID Foundationが2026年1月に最終仕様として承認した AuthZEN Authorization API 1.0 を紹介するセッション。 認証(OAuth/OIDCでほぼ標準化済み)に対し、認可はベンダーごとにバラバラの独自実装が乱立していたという長年の課題に対し、「判断する側(PDP)」と「強制する側(PEP)」を分離し、シンプルなJSON APIでやり取りできるようにする標準インターフェースを定義したもの。 AIエージェントがAPIやインフラに広くアクセスするようになるほど、「このエージェントはこの操作をしてよいか」というきめ細かい・リアルタイムな認可判断が重要になる、という文脈でKeycloakを使ったエンドツーエンドのデモが行われていた。 前日聞いたMCP Enterprise-Managed Authorizationが「認証」寄りの標準化だとすると、AuthZENは「認可」寄りの標準化として補完関係にあるという整理は分かりやすかった。
スポンサーセッション
スポンサーブースでもいくつかのデモを見た。 中でもAWSのデモが興味深かった。
Amazon EKS Capabilitiesのデモ
直前に聞いたkroに加えてACK(Amazon Controllers for Kubernetes)やArgo CDを含む、AWSのEKS向け構成(EKS Capabilities)をAWS担当者がデモしていた。
kroとACKは相性が良さそうで、独自に構成を組むよりもこちらを使う選択肢の方が現実的かもしれないと感じた。
Agentic SkillによるEKS構成のAIレビュー
AWSが提供するAgentic SkillであるAPEX Skillsを使ってAIエージェントを動かし、EKSクラスタの構成をレビューするデモ。 EKS向けのMCPサーバを立てて、Security・Cost・Reliabilityそれぞれのanalyzerを動かし、EKSクラスタを分析させていた。 AWS担当者に「先にMCPサーバを立てておく必要があるか」と伺ったところ、APEX SkillsはMCPサーバがない場合は自分でコマンドを実行して用意してくれるとのことだった。 EKS向けのMCPサーバ自体もワンコマンドで立ち上げられるという。
まとめ
カンファレンス全体としては「AIワークロード(特に推論)をKubernetes上でどう効率よく・安全に・持続可能に回すか」という話が中心的だった。 ただ自分はSREとして日々プラットフォームの運用性・信頼性・チーム間の摩擦に向き合おうとしているため、プラットフォームエンジニアリング寄りのセッションを中心に聴講した。
それでもAIというテーマは、プラットフォームエンジニアリング寄りのセッションにも共通して見られた。 AIOpsによる自動ロールアウト修正やContext Fabricによる根本原因分析支援のように、「プラットフォームチームが運用するインフラの対象がAIワークロードになる」だけでなく、「プラットフォームの運用自体をAIエージェントが手伝う」という二重の意味でAI化が進んでいるのが今回の実感だった。
もう一つ感じたのは、AIの隆盛によって「リソースが再び不足する時代」が戻ってきたということ。 CoHDIによるGPU/DRAMのcomposable化、PFNのマルチテナントにおけるisolationとコストのトレードオフ、DRAを使った省エネなデバイス選択、OCM+DSFによる分散拠点のスコアベース配置など、聞いたセッションの多くが根っこでは「限られた高価なハードウェア(GPU・電力)をどう合成・共有・最適配置するか」という同じ問いに向き合っていた。 クラウドの従量課金でリソースの制約をあまり意識しなくて済むようになっていたところに、GPU・電力という物理的な希少資源が新たなボトルネックとして再浮上し、かつてのHPC(High Performance Computing)界隈で見られたようなリソース最適化の議論が形を変えて戻ってきている、というのが今回感じたことだった。